削蹄師の仕事
牛の蹄を切ること
僕達の日常にある乳製品は牛たちの健康が守られてこそです。その健康のために僕達「削蹄師」は牛のツメを切り、常に状態を観察しています。あまり世に知られてない裏方のような仕事を継続し、その先で乳製品等がつくられ表舞台へと繋がってゆく…
これまでの経緯
削蹄師 山川弘恭
削蹄師を志した頃
もう20年も前の話ですが、2級認定牛削蹄師の試験については、当時は落ちる人は滅多にいませんでした。それは「この世界へようこそ」くらいのイメージでした。僕は何度か師匠に弟子入りを頼んで断られています。それでも削蹄師への憧れは消えず、削蹄師の試験の講師をしている、当時の師"原幸夫氏"への憧れがありました。弟子入りするとか教えてくれる人と出会えるか?
師への憧れ
その時の鎌(かま)や剪鉗(せんかん)を使って現場で牛の爪を切るシーンが忘れない。単純な話「カッコいい」と心底思い、削蹄師に憧れを抱いてしまったのです。その時は少しでもその仕事に携わり役に立てればと思い、それから場所は遠かったですが、原氏の仕事現場に数ヶ月通いました。それから弟子入りさせてもらう事ができ、半人前ながらも削蹄師として少しずつ胸を張って人にも言えるようになっていったのです。
削蹄師の現状
馬の蹄に蹄鉄(ていてつ)を打つ装蹄師と異なる点は、削蹄師は教育センター等の環境がまだ整っていないのが事実です。馬の装蹄師の場合は「装蹄教育センター」があり、そこで技術を習得できますが、削蹄師の場合、周囲の人に削蹄師がいなければ、学びの場を自分で探さなければなりません。削蹄師を目指したくても当時の僕のように迷子になったり、或いは諦めてしまう場合だってあるかもしれません。
削蹄師の未来
山川がお伝えしたいこと
人と人
「一言で削蹄師は牛の爪を切る」と申し上げても頭の中でイメージが湧かないでしょうし、どんな仕事であっても、例え同業であっても仕事で身を置いている環境はそれぞれ異なります。考え方もそうですし、ある意味、自分達がいる環境は当たり前ではなく、そこで働いている人も限られているのではないでしょうか?今は検索して情報をすぐに調べる事ができる便利な時代ですが、僕が深く携わっている農家さんや削蹄師さん、それから影で支えてくれる人達がいます。
仕事が人生
当然、僕らも職人として削蹄師の仕事に誇りを持って取り組んでいます。千葉の自然の中で過ごす、ここならではの環境、この仕事を通じて巡り会う様々な人達がいるという事をお伝えしていきたいです。これもある種、密な関係であり、削蹄師の仕事を世間の人々に説明するのは難しいですが、その反面、話が尽きず周囲の人達に多くの話題を提供と思います。
最も大切なこと
牧場、農業、酪農、獣医さんなど自然や生き物に携わる人、さらに同じ職人気質な人等、接する中で見えてくる事は沢山あると思っています。技術面も含め根本軸は職人として譲れない部分です。しかし、その中で最も大切なのは人であり、人がいなければ成り立たない仕事が世の中にはあります。その中の一つとして削蹄師と呼ばれる仕事があるというお話です。
山川 弘恭